独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行った「営業秘密実態調査2020」によれば、不正アクセス対策を「何もしていない」と答えた企業は全体のわずか6.1%。2016年調査の34%から大幅に減少しており、多くの企業がこの数年で情報セキュリティ対策への意識を高めていることが分かる。
こうした中、経済産業省では定期的に「営業秘密官民フォーラム」を開催し、営業秘密の漏洩に関する最新手口やその対策に関する情報交換を行っているが、6月2日の会合で同省の知的財産政策室は「情報流出の契機として、不正アクセスより持ち出しが課題」と問題提起している。実際、前出の調査で不正持ち出し対策を「何もしていない」と答えた企業は全体の25.4%と、不正アクセス対策よりも圧倒的に低い。さらに、営業秘密侵害罪の検挙件数はこのところ右肩上がりで、平成25年には5件だった検挙件数が、令和2年には22件まで増加した。漏洩ルートの3~4割は退職者だが、近年は海外経由の流出事件も増加しており、これが検挙数アップにつながったとみられる。
2019年には、電子部品製造大手「NISSHA」の元従業員が、同社のタッチセンサー技術に関する情報をハードディスクに不正に複製し、不正競争防止法違反(営業秘密領得・海外重罰適用)の疑いで逮捕された。この従業員は同社を退職後、中国にある競合会社に勤務していたという。このほかにも、外国企業からSNSを通じてメッセージを受け取り、これがきっかけとなって営業秘密が持ち出された事件も起こっている。
テレワークが普及したことで漏洩ルートの多様化が心配されるが、企業側ではどんな対策ができるだろうか。秘密保持契約や競業避止義務契約を締結するのは当然として、退職の申出があったら速やかに社内情報へのアクセス権を制限したり、退職申出前後のメールやPCのログを精査することが必要だろう。そして何より「従業員のロイヤルティ」を高めておくこと。これこそが一番の対策であることを意識しておく必要がある。